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衛藤賢史のシネマ教室

ピータールー マンチェスターの悲劇

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   2019/09/10

「秘密と嘘」「ヴェラ・ドレイク」など寡作だが、社会性のある作品を発表し続けるイギリスの監督マイク・リーの最新作である。今回は日本では馴染みがないが、19世紀初期にイギリスのマンチェスターで起こった庶民の平和デモの人々を蹂躙し虐殺した、イギリス史上で最も悪名高いセント・ピーターズ広場の事件を時系列に沿って描いた作品である。

1815年、ナポレオン戦争の決着戦であった<ウォータールーの戦い>をウェリントン公爵の指揮の下、この過酷な戦いに勝利したイギリスであったが、経済が悪化し庶民は貧しさに喘いでいた。<ウォータールーの戦い>で辛くも生き残ったラッパ兵のジョゼフ(ディヴィッド・ムーアスト)は、延々と徒歩でマンチェスターの家にたどり着いたものの家族は日々の暮らしが成り立たない程物価が高騰し労働賃金は下がり、困窮生活を強いられていた。そんな暮らしは、イギリスの庶民全体の生活でもあったのだ。庶民には選挙権がなく、そんな困窮ぶりを訴えるすべもなかった。そんな生活の窮状を訴える方法として、庶民に選挙権を与えるべしという運動がイギリス全体に沸き上がりマンチェスターでも有志が動きはじめる。政治活動には無縁の女性たちも参加し、セント・ピーターズ広場で武器など持たない平和デモをする計画が練られ、社会啓蒙家として有名なヘンリー・ハント(ロニー・キニア)をデモの中心人物として迎えることになった。しかし、そんな計画を国王・政府・判事などの上流階級はクーデターと同じであると判断し、その計画を潰しヘンリー・ハントなど中心人物を逮捕し、庶民を恐怖で黙らせる計画を練っていた。1819年8月16日、セント・ピーターズ広場に近隣の庶民たちがまるでカーニバルに参加するような平和気分で、婦人・子供など連れて6万人の庶民が参集したなか・・・。

8月16日の平和デモにいたるまでの過程を、マンチェスターの庶民の思いのそれぞれを時系列に沿って丹念に描きながら、当時のイギリスの法制度の庶民を顧みない上流社会の傲慢な体制を、マイク・リー監督は透徹した目線で静かに描写していくのだ。政治の大変革への願いではなく、一切れのパンを求めての庶民の願望からはじまった平和デモに対しての、体制側の過剰な反応による<ピータールーの虐殺>事件は、歴史のほんの一頁でなく形を変えて全世界に今もある現象への警鐘でもあるのだ!
ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。

5点満点中4.5点 2400円

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