「淵に立つ」(2016)で一躍注目された深田晃司監督の最新作。主役には「淵に立つ」で起用され、トップクラスの女優として大輪の花を咲かせた筒井真理子がふたたび深田監督とコンビを組んで心の闇をかかえる女性の好演をしている。
訪問看護を天職と感じている市子(筒井真理子)は、その献身的仕事ぶりで看護している患者に信頼されていた。今は大石家の少し認知の入った祖母を受け持ちで毎日通っている。大石家には孫娘がふたりいるが、長女の基子(市川実日子)は市子の介護ぶりを見て介護福祉士になろうと、市子に受験勉強の手伝いをしてもらっていたのだが、基子が市子に対して憧れ以上の愛情があるのを市子は気づいていない。ある日、基子の妹で中学生のサキ(小川未祐)が塾の帰りに行方不明になりメディアに報道され大騒動のなるが、すぐに無事保護されたものの誘拐容疑で逮捕された容疑者は市子に関係ある意外な人物だった。それによって、この事件との関与を疑われた市子は、メディアなどの曲げられた報道などによって窮地に陥ってしまう。さらにどこまでも市子を信じてくれると言ってくれた基子も、市子が訪問看護施設の医師(船越満)と再婚するのを知り絶望してひどい裏切りをしてしまう。今や訪問看護の仕事も馘首され、医師との再婚も破れ四面楚歌の状態の市子には、人生のすべてを奪われたはげしい憤怒の感情のみ。市子は葛藤の末、その感情の吐き出し口として<ある復讐>をする決心をするのだが。
身にまったく覚えのない出来事によって、ある種のホラーを見るようなこの作品は、他人事ではない絡みつくような怖さを感じさせる内容となっていた。そしてその過程のなかで、それぞれの平凡な人々が秘める心の闇が凶器のようにじわりじわりとあぶり出されてくるのだ。それは被害者である筒井真理子演じる市子でさえも、その心の闇を消せない!ゆっくりと崩れ落ちる連鎖のような人生のドミノ倒しの物語といっていいか!そしてそこから市子は踏みとどまることができるのか?それはシンボリックなラストシーンを見る人々がどう解釈するかにかかっているのだ!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげたい作品でした。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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