万華鏡を覗くような気持ちになる超華麗な色彩感を得意とする蜷川実花監督が、平山夢明の同名小説のサイケデリックな世界を映画化した作品。
オオバカナコ(玉城ティナ)は幼くして母に捨てられ自分はこの世に存在する価値のない人間だという虚無的感情を持つ女性として育った。ある日、メキシコにあるキラキラした色彩に満ちた町のパンフレットを見て、旅行費を稼ぐため闇社会のバイトに手を出し、そのカタにデンジャラスなダイナー(食堂)に身売りされてしまう。そこのオーナーは凄腕の殺し屋でありながら天才的シェフであるボンベロ(藤原竜也)で、来る客はすべて殺し屋だけという<ダイナー>という店名の食堂だった。オオバカナコの唯一の得意なものは料理だったが、そこでの仕事はメイド喫茶のような格好にさせられ、キレたら何をしでかすか分からない殺し屋の客たちに給仕するだけ。全身傷だらけの孤独な殺し屋スキン(窪田正孝)や、見掛けは子供のような姿をしたサイコキラーのキッド(本多奏多)、筋肉自慢でスペイン語でわめき散らす荒くれ者ブロ(武田真治)などタイプの違う殺し屋たちが次々と来店しオオバカナコは恐怖ですくみ上がってしまう。そんなオオバカナコに冷たい態度で接しながらさりげなくフォローするボンベロもキレたら容赦なく殺しをする態度に、身の危険を覚えたオオバカナコはボンベロの大事なワインを隠し、それを切り札にして自分を守ろうと図る。そんな中、組織の大ボスの死によって後釜を狙う大物殺し屋のコフイ(奥田瑛二)、マリア(土屋アンナ)、ブレイズ(真矢ミキ)らの会合が<ダイナー>で行われることになり、一触即発のヒリヒリした雰囲気に包まれるなか・・・。
作品の全編のほとんどが<ダイナー>の中で展開されるこの作品を、蜷川監督が凝りに凝っためくるめくような色彩を画面上にまき散らしながら、超サイケデリックな殺し屋たちの生態を見せていく。それはまるで飢えた狼たちの群れに囲まれた子羊のような構図として、玉城ティナ扮するオオバカナコの立ち位置を示すのだが、曲者俳優たちに囲まれた玉城ティナの清潔な雰囲気がこの内容のキー役としての役割を果たしていた! また「グロリア」(;80)を思わせるラストシーンなども含めて、見る観客を最後まで引っ張る力のある作品になっていたのだ! ぼくのチケット代は、2100円出してもいい作品でした。 星印は、3ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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