生活苦や家庭崩壊で日々の食事すら取れない子供たちを支援する「こども食堂」が、一時期メディアで報道されたのは承知していると思います。この作品は、それをモチーフにした小学生の子供たちの目線で、淡々としかし見るぼくらに強烈なメッセージを送る作品となっていました。
小学5年の高野ユウト(藤本哉太)は少年野球をしている、と言っても補欠。同じ補欠の大柄だが無口で気の弱くイジメラレっ子のタカシ(浅川蓮)にイライラしながらも友人としてつき合う仲。じつはタカシの家は崩壊していて母のみ、母はしょっちゅう家を空け食事も満足にとれない境遇なのだ。それを心配するユウトの両親(吉岡秀隆/常盤貴子)は、毎日タカシに食事をさせている。ユウトの両親は「あづま屋」食堂をふたりだけで経営している。豊かではないが円満な家庭生活をおくっている夫婦だった。ある日、タカシは河原で軽のバンに車上生活しているらしい父親と自分と同じ年頃のミチル(鈴木梨央)幼いヒカル(古川凛)の姉妹を見かける。さらにミチルがスーパーでパンを万引きして説諭される現場を目撃する。タカシよりもさらにひどい境遇の姉妹に胸を痛めたユウトは、両親に見知らぬ姉妹に食事を出してほしいと頼む。久しぶりの温かい食事にヒカルは素直に喜ぶが、物心のついたミチルの態度は堅いのがユウトの気にかかった。数日後、心ない少年たちが軽のバンを壊してしまい、ミチルとヒカルは住む場所を失ってしまう。タカシのやさしい両親は2人を家に泊まらせるが、いつまでもという訳にはいかない。幼いヒカルは父母を想い、かっての親子4人での楽しかった時期の思い出の場所にいきたがる。それまでタカシのいじめにも目をそむけ、心が傷つくような事は避けてきたユウトは決心する!その場所にタカシとミチルとヒカルで行ってみようと・・・。
ユウトの幼いピュアーな精神では計り知れない世間の状況を、ユウトの目線で進めるこの作品は、それだけにぼくら大人の心は痛烈に打ちのめされる内容となっている。お涙ちょうだいの内容でなく、ごく淡々と5人のこどもたちの出来事をスケッチ風に描くだけなのに、見るぼくらの胸は詰まり自然とわきあがる涙をとめることの出来ない作品となっていたのだ。今の世の中への糾弾は一切ない描写だけに、かえって胸につき刺さる作品であった!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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