松竹が企画するオリジナル映画による若手発掘プロジェクトに抜擢された野尻克己の監督デビュー作品であり、自身のオリジナル脚本によるものである。
両親・息子・娘の4人家族の鈴木家の息子・浩一(加瀬亮)が、ある日突然自殺した。引きこもりの浩一の面倒を見ている母・悠子(原日出子)、買い物から帰ってその現場を目撃したショックで記憶喪失症になってしまう。病院に収容された悠子の症状が事件前後の記憶を喪失していると医師から説明された父・幸男(岸部一徳)と大学生の娘・富美(木竜麻生)は嘘をつくことにした。悠子の弟(大森南朋)である叔父が経営するアルゼンチンの養殖海老会社に、浩一が就職して現地で元気に暮らしている!ということにして退院した悠子を安心させようとしたのだ。幸男の妹(岸本加世子)の強硬な反対意見も無理やり説得して、親戚を巻き込む浩一生存説に、前後の記憶のない悠子は納得する。アルゼンチンで元気に暮らしているという証拠を作るため、富美は浩一の筆跡を真似した葉書を作り、幸男はアルゼンチンならゲバラでしょう!と大量のゲバラTシャツを購入して、叔父の現地から浩一が送ってきたと悠子に見せる作戦を作るなど涙ぐましい努力を重ねる。しかし、そんな努力は無理があるのは当たり前だった。幸男も富美もだんだんと悠子に嘘をつくために無理に無理を重ねる行為に精神的に疲れはじめる。そんな中、叔父がアルゼンチン人の若い恋人と結婚するという報告があり、鈴木家の家で親戚や叔父の従業員を招いての手作りの結婚式を行う最中に、母・悠子のサプライズ行為に富美の鬱屈した心が爆発してしまう・・・。
浩一の自殺から起こる家族の涙ぐましい努力の顛末を、母・悠子の引きこもりの息子への切ない心情、父・幸男の心の内、妹・富美の兄への生前の感情など織り込みながら展開する内容によって、肉親の死から生じる家族内の葛藤、精神的苦悩を得て、心の再生へともがいていく様を丁寧に表現していこうとする。
ぼくら観客はそんな鈴木家の、死者を生者として扱わなければならなくなった事情に同情しながら、こんな無理な行為のてんやわんやの騒動をハラハラしながら見る事になる。そして家族の在り方について考える。そんなコメディという名の切ない家族の物語なのだ。
ぼくのチケット代は、2000円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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