いい作品であった。真摯な態度で原作の持つテーマに真っ向から向き合った山崎監督の意欲的演出に拍手を贈りたい。
これは不幸な時代に生まれ合わせ、何も語らずに散って行った日本の若者たちへの魂に捧げる痛烈な鎮魂の作品となっている。
太平洋戦争中、日本海軍のゼロ戦パイロットとして卓越した技量を有する下士官・宮部久蔵は「海軍一の臆病者」と仲間たちから呼ばれていた。
宮部の孫にあたる佐伯健太郎と慶子の姉弟は、祖母・松乃の葬儀の日に実の祖父と思っていた賢一郎は祖母と再婚した相手であり、本当に血の繋がった祖父は宮部久蔵という終戦直前に特攻出撃で戦死したパイロットであったことを知る。
ルポライターを志望している慶子は、健太郎と共に宮部の足跡を調べようと、かつての戦友を探して聞き書き調査を始めた。
その結果、宮部が「海軍一の臆病者」だったという芳しくない評価を聞く。
飛行技術は抜群なのに「この戦争から生きて妻の下に還りたい」ということに執着し、潔く死ぬという軍人の本分から離れた考え方をする宮部は、卑怯者として考えられていたのだ。
そんな人が自分たちの祖父であったのか!と屈辱的な気持ちの姉弟だったが、くじけずに調べていく内にしだいに宮部の実像が浮かび上がってくる。
口コミでベストセラーとなった百田尚樹の小説は、資料をよく精査し丁寧に書きこまれた分、映画化に際して内容の骨子の選択を少しでも誤れば陳腐な作品に成りかねない危険性があったと思う。
しかし、山崎監督は144分と言う長さの中に見ごとに小説のテーマと物語の大切な骨子を織り込んできた。
あの時代の過酷な状況下におかれた下級軍人たちの、運命への甘受を通して祖国に住む家族たちへの愛を胸に秘めながら散って行った人々への心からの哀悼が、生き残った戦友を通して宮部の言動に集約される流れへのまとめ方は、あらゆる物を破壊するだけしかない戦争への否定をよく表現し得た。
CGによる特撮技術もすばらしく、臨場感のある描写であった。
また、岡田准一の抑制した演技力、橋爪、田中泯などのベテラン俳優などの演技の確かさや、軍人を演じた染谷、濱田、新井などの演技も見応えがあった。
そして、この作品を最後に逝去した夏八木勲に合掌したい!
ぼくのチケット代は、2,400円出してもいい作品でした。星印は、4つ半差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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