ブルース・リーの師匠と言われるイップ・マン(葉問)を描いたこの作品は、従前のカンフー・アクションと少し距離を置いた激動期の中国を舞台にした人間ドラマの要素の濃い内容となっているので、中国武侠物という超絶的アクション映画を期待した人にとってちょっと勝手が違う感じを持つかも知れないが、中国武術の神髄を究めようと鍛錬する人々の姿を通して葛藤、愛、仁、義などが複雑に絡まり合い、交錯していく展開をウォン・カーウァイらしい流麗な描写で見せてくれる佳作となっている。
ウォン・カーウァイらしい流麗な描写で見せてくれる佳作となっている。 1930年代、裕福家庭に育った葉問は、生活の心配なく中国武術に鍛錬する生活を送っていた。その頃の中国武術は南と北の流派に分かれていたが、北の宗師(グランド・マスター)宮宝森が南と北の融和を求めて南の宗師・陳華順を訪ねてくる。宮は北の後継者に馬三を決めていたが、南の代表者が自分に勝てばその者を中心に武術会がひとつにまとまって国を守ることを考えていた。宮の南の相手に選ばれた葉問は、その技術、人格、見識によって宮を感服させ「後を託せる者」と宣言する。面白くない馬は宮に逆らい誤って殺してしまう。その頃、日本軍が侵攻し馬は、日本軍の味方となってしまう。宮の娘・若梅は父の敵として馬を狙う。女性ながら卓越した武術の腕前を持つ若梅は父から伝授された技を葉問との一騎打ちの戦いで教えながら、葉問に慕情を抱く。
日本軍への協力を拒んだ葉問は屋敷を接収され生活が窮し娘が餓死してしまうという悲劇に襲われる。一方、若梅は馬との対決に生活のすべてを捧げる。
終戦後、ただひとりで香港に住む葉問は、若梅と再開するが…。
巻頭シーンのスローモーションでの葉問の戦うシーンを含め、すべての戦いのシーンは本物の中国武術の組み手で撮影されている。そのため、トニー・レオンもチャン・ツィイーもチャン・チェンもハードなトレーニングを積んで撮影に臨まされたという。つまり、一切の虚構のない真正の中国武術が見れるというわけだ。
その核とする部分を嘘にしていないので、激動の時代を駆け抜けた葉問と宮若梅の切ないまでのストイックな生き様と心に秘めた慕情の姿がクッキリと浮びあがるのである。寒色の濃い撮影の濃淡の美しさ、ノートに書き写したような哲学的啓示の台詞、単なる武術物を超えたウォン・カーウァイの幻想味あふれる中国武術作品である。
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいいと思う作品でした。 星印は4つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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