タイトルの『クナシリ』とは、ロシアが実効支配している<国後島>の事です。戦前に日本の領土だった北方四島の国後島・歯舞群島・色丹島・択捉島で、北海道からわずか6キロの距離にある島が国後<クナシリ>なのです。この作品は、ロシア人で現在フランスにいるウラジーミル・コズロフ監督がロシア連邦保安庁の特別許可と国境警察の通行許可証を得て、国後島を撮影したドキュメンタリー作です。今は日本人が入れない国後島の有様を、コズロフ監督は戦前の日本人が生活したセピア色の写真を豊富に挿入しながら、ロシア人が住む島の様子を丹念に撮影していきます。荒涼とした島のそこかしこに残る、放置された寺の残骸、お墓の痕跡、土に埋もれた欠けた茶碗痕、朽ち果てた日本人集落などを映していきながら、島に住む戦前生まれのロシア人老人から日本人との共同生活の話を聞き出していくのだ。なべてロシア人たちの話は、日本人との生活は好意的であり、もし叶うなら日本人たちと一緒に島で働くのも、島の発展になるのではないかと言う言葉を出していたのだ。その言葉の裏には、映し出されるクナシリの開発の遅れからくる、前近代的な暮らしぶりを余儀なくされる荒涼たる風景からも察することができるのだ。ぼくら大分県人が晴れた日にくっきりと見える四国の佐多岬よりも、はるかに近い北海道から16キロの位置する国後島の現状を、日本人の大半は知ることもなしに70年以上過ぎ去り、ましてや北海道とは対極に位置する九州に住むぼくらは遠い場所での出来事と思いがちになるのだが、コズロフ監督の勇気あるドキュメンタリー作によって、ロシアと日本の間に横たわる領土問題を、どちらにも偏らない有りのまま国後島に住む人々の現状を淡々とドキュメントする内容により、真摯な態度で人ごとでなく人間の問題として考え込まされる作品となっていたのです。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、その勇気に4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.