サンダンス国際映画祭でグランプリを獲得した作品であり、アカデミー賞で4部門にノミネートされたが、特に主演女優賞でウォレスちゃんは6歳という史上最年少の候補として大きな話題を呼んだ作品でもある。
新人監督が製作費200万ドルという、アメリカ映画にしては破格に安い費用で作り上げたこの作品は、父と暮らす6歳の少女・ハッシュパピーの目を通して描かれる故郷の生活である。
通称<バスタブ>と呼ばれる長く伸びた堤防の外にある閉鎖的なコミュニティは、文明の恩恵のかけらも受けてないような場所。掘っ立て小屋に父と住むハッシュパピーは、そんな生れ場所が大好きな自然児。<バスタブ>で暮らす大人たちの生活は、財産も何もないが毎日がお祭り騒ぎの活気のある生活をしている。
しかし、大人たちも子供たちもいつかはこの場所が、地球の温暖化や自然淘汰の仕組みの中で水の中に沈んでしまうことを知っていた。ハッシュパピーも父から大人たちからその事を教えられ、生き残るために強くなれと言われていたのだ。
「弱い心でいると、かつてこの地に住んでいた大昔の怪獣が生き返り食われてしまう」と荒くれ者の父ウィンクからも言われた、ハッシュパピーはどんな目にあっても泣かない気性の激しい子供となっている。
そんなある日、大嵐が襲い<バスタブ>は壊滅し、ほとんどの場所は水の中に沈んでしまう。水は引いても土地は腐り、動植物が住めない場所となった<バスタブ>に、大昔の怪獣たちが生き返り<バスタブ>に大挙して襲いかかってくるのを幻視する。
廃墟となったこの土地は強制避難区域に指定されハッシュパピーや父などの住人は、無理やり難民収容所の病院に収容されるのだが、重い病気にかかった父などの力によって収容所を脱出したハッシュパピーたちは、世界で最も好きな場所<バスタブ>へと戻っていくことにするのだが・・・・。
まるで神話の世界が現代に舞い降りたような内容のこの作品は、生命力あふれる根源的な生活に見るおおらかさの中に、どんな困難であろうと立ち向かう人間の勇気を描きながら、その中に内包する残酷さ、美しさを6歳の少女の目線で追う。
この作品の余韻の残る出来にしているのは確かであり、アカデミーでノミネートは当然と言ってもいい出来であった。
ぼくのチケット代は、2,000円出してもいい作品でした。
星印は、3つ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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