『君の名は。』(2016)『天気の子』(2019)で、日本のみならず世界中のアニメ・ファンを魅了させた新海誠監督のファン待望の最新作です。今回は、日本各地に数多くある過疎や厄災で荒れ果てた廃墟地を、ある事情から旅するようになった、少女と青年の心に抱えた苦しみからの解放と再生の旅を描いていく作品となっているのです。
九州の過疎の町に住む、高校生の岩戸鈴芽<スズメ>(声・原菜乃華)は、日本各地を旅する草太(声・松村北斗)と出会う。草太は、日本中の廃墟にある厄災を招く『後ろ戸』を閉じる旅をしていた。草太は、この戸が開くと日本中に厄災が起こるため、自分が犠牲になることをも覚悟させられながら、それを封じることを使命とする先祖代々の家系の継承者だった。スズメは、そんな草太に心惹かれて自分が住む町の廃墟地に同行していく。しかし、スズメの失敗から『後ろ戸』から出現した不思議な猫・ダイジンの呪いにより、草太は小さな椅子に変えられてしまう。責任を感じたスズメは、草太を元に戻すためと、連鎖作用で日本各地の廃墟地で開きはじめた『後ろ戸』を閉じるため、逃げたダイジンを追いかけて、小さな椅子と化した草太を抱えた珍妙な姿で、九州から東北までの各地で開く『後ろ戸』を閉じる、『戸締まり』の旅に出たスズメと草太だったが・・・。
日本という国にべっとりと張りついた地形上からくる自然の恩恵と厄災で、日本人は自然の恵みと荒ぶる自然を、あるがままに受け入れる自然信仰民族になっていった。新海誠監督は、日本のこの自然の荒ぶる事象を物語の芯を据えて、かなわぬまでも抗う若者たちの姿を凛々しく立ち向かえという態度で描いていく。3・11の震災で母を失ったスズメの心の奥深くにある悲しみが、荒ぶる自然と抗いながら解放されていく様を描いていくこの作品は、前2作に比較してよりコミカルによりダイナミックな描写の連続でスケール感の大きな内容になっていたのです。スズメの姓名を『岩戸鈴芽』としたのは、日本の古代神話にある最高神・天照大神<太陽神>が天岩戸にお隠れしたとき、八百万の神々の前で踊り岩戸を開かせたアメノウズミノミコトにちなんでイワトスズメにしたと、新海監督が語ったネーム着想で、今回の作品の意図が察せられ納得した作品でした!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.