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ペコロスの母に会いに行く

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   2013/11/12

衛藤賢史のシネマ教室

ハートウォーミングな映画とは、このような作品を指して言う言葉であろう。
認知症の母を介護するバツイチの中年男の話、と言えば湿っぽい内容と思いがちであるが、何回も笑い!何回も泣き!ながら魂が癒される作品となっているのだ。長崎に暮らす岡野ゆういちは、中年のバツイチ男。広告関係の仕事についているが、ペコロス岡野というネームで音楽活動や漫画を描くのに夢中と言うハゲちゃびんの男。まわりの友人たちから親しまれている人気者だが、母のみつえは軽い認知症にかかっており、毎日の生活は認知症の母の言動や行動にふり回されテンヤワンヤの状況である。だが母が大好きなペコロスは頑張って自分ひとりで世話をしていた。
しかし、母の症状はしだいに悪化し、遂に介護施設に預けることになる。母みつえは天草育ちで10人の子供の長女として戦前戦後の時代を生きてきた。長崎の原爆を対岸の天草から不気味なキノコ雲を見てきた世代である。結婚して長崎へやってきたが、夫のさとるは根は真面目だが酒乱の癖があり苦労が絶えない人生を送りながら、ひとり息子のゆういちを育ててきた。みつえの認知症はそんな過去の生活への記憶へと少しずつさかのぼっていっていたのだ。そんな母みつえの症状を時には悲しく見つめながらしげしげと介護施設に通うペコロスだが、そこでの新しく知り合った友人たちや、昔からの仲間たちとの心からの交流に生活の基盤を置き、過去の時代へと帰っていくみつえの姿を漫画に描いていく。ハゲちゃびんの頭をなでさせることによって、やっと息子と認識できる母みつえの薄れてゆく記憶をペコロスの息子まさきと見守りながら「ボケるとも、悪か事ばかりじゃなかかもしれん」と思うペコロスの日常生活をユーモラスに描くこの作品は、母への愛しい生き様を敬愛をもって描写することに成功し、同時にそれぞれの名も無き庶民たちへの人間賛歌を謳い上げる作品となっているのだ。ぼくのチケット代は、2,400円を出してもいい作品でした。
星印は4つ半差し上げたい作品です。

5点満点中4.5点 2400円

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