われわれが考える高雅にして静謐な利休像を形成した裏には、ひとりの謎の女性の影があった。若き日から、常に懐に抱え誰にも見せない緑綵の香合の焼き物への切ない思いとは何であったのか?
秀吉から切腹を命じられた当日から、過去へと遡って展開するこの物語は、新しい利休像をわれわれの前に見せてくれようとする。
雷鳴轟く春の嵐の早朝、秀吉の不興を買い死を賜った千利休は、切腹しようとしていた。
最後の茶を立てようとしている千利休に、妻・宗恩は長いこと胸に秘めてきた言葉を発する。「あなた様にはずっと想い人がいらっしゃったのでは・・」と。この言葉に利休は、ここまでの来し方までの遠い時代の記憶を蘇らせていく。
戦国末期、堺の商人にして傑出した茶人として頭角をあらわした利休は、時の覇者になろうとしていた織田信長に、そのただならぬ審美眼を見出され重用される。
時は移り、天下の覇者となった豊臣秀吉も利休を愛した。
かつて信長の怒りを買い死を覚悟した秀吉は、最後の思い出として利休の茶を所望した時に、利休の覚悟の定まったもてなしと言葉に思わず落涙する。人たらしの天才と言われた秀吉に本物の涙を流させる利休の器の大きさに、秀吉の武将・石田三成は「こやつは危険だ」と警戒心を覚える。
そんな利休は、秀吉の武将たちからも尊敬される。三成の猜疑心にあおられ、世の中に怖い物なしの秀吉は、だんだんと利休に疎んじはじめた。秀吉は利休の懐にある謎の緑綵の香合を嫉妬心から所望するも拒絶され、遂に利休を葬り去ることにする。
そして、その謎の緑綵の香合こそ天下人の所望であろうと絶対に渡せない、若き日の荒ぶる利休と薄幸の高麗の女性との忘れえぬ思い出の大切な品だったのだ。
今や、すべての出来事を一期の思い出として、利休は魂の思い人の待つ世界に旅立つのであった。
豪華絢爛な日本的美世界を現出したセットのすばらしい表現。その時代の国宝的価値を持つ長次郎の茶碗など本物へのこだわりを随所にちりばめた美の極致の世界にため息が出る作品であった。
ただ、利休と秀吉の愛憎描写に力を入れすぎたせいか、その他の登場人物の性格描写が淡白なのが気にかかった。高麗女性を演じたクララの印象は鮮烈なものがあった!
ぼくのチケット代は、その豪華さに2,000円出したい作品です。
星印は、3つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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