世界に6輌しかないドイツ軍のタイガー戦車の中、可動可能な1輌を使用し、アメリカ軍のシャーマン戦車も本物を登場させ、二次大戦当時の武器や軍服や兵士の髪型まで徹底したリサーチでリアリズムにこだわったD・エアー監督のこの作品は、<フューリー(激怒)>と砲身にペンキされた1輌のシャーマン戦車に乗る5名の兵士たちの24時間の戦いと行動を描いた凄まじい迫力を有する作品となっている。
戦争終結も間近に迫った1954年4月、ドイツ国内を侵攻中のアメリカ軍のシャーマン戦車隊の中にコリア軍曹が指揮する<フューリー>と呼ぶ戦車がいた。アフリカ、フランス、ベルギーの戦場を生き抜いた4名の仲間のひとりをドイツの戦場で亡くしたコリア軍曹の下に18才の新兵ノーマンが補充されてやってくる。まだ戦闘の厳しさを知らないノーマンに疑惑の目を向けるコリアら4名の兵士。案の定、ノーマンは子どもの兵士を撃つことが出来ず、味方の戦車が破壊されてしまう。コリアから「子どもであろうと武器を持った者は殺すのだ」と激しく叱責されたノーマンは反発するが、戦争という生きるか死ぬか、という極限までに凄惨な二者択一の世界の中で精神が崩壊してしまいそうになる。そんなノーマンを荒っぽい方法で戦場の流儀を教え込むコリア。ノーマンから見ればコリアは冷酷に見えるかもしれないが、コリアにとって戦場における唯一のルールは部下の命を守ることに尽きるのだ。己を含む5名の戦車内の仲間は家族でありその命を守るために、どんなタフな条件でも5名が一致団結して難局をクリアして過酷な戦場を生き抜いてきたのだった。そんなコリアの慈愛ある一面を垣間見る機会もあり仲間とも打ち解けはじめたノーマンだったが、それも束の間、新たな任務が下される。
アメリカ軍の進路にあたる十字路の確保を命じられた戦車隊は、恐るべき敵タイガー戦車と遭遇し死闘の末、<フューリー>だけが生き残り、ドイツ軍SS精鋭部隊300名を、たった1輌で迎え撃つことになる。それは死に直行する絶望的戦いであり、決断はコリアがしなければならなかった・・・・。
戦争という人間同士が殺し合う非情な世界に立たされた兵士たちの狂的心境を、24時間という限定された時間の中に1輌の戦車と5名の兵士を中心に描かれたこの物語は、その濃密な戦争描写と兵士のリアリスティックな心象描写によって優れた内容となっており、さらに舞台をドイツの名も無き戦場で名も無き兵士、民衆が散っていくという設定によって、より鮮明に戦争の虚しさをぼくらの心に訴えかける作品となった。
コリア軍曹を演じたB・ピットの円熟した演技は出色の出来である。
ぼくのチケット代は、2,500円出してもいい作品でした。
星印は、5つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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