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リスボンに誘われて

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   2014/11/11

衛藤賢史のシネマ教室

原作者はスイス出身、監督はデンマーク出身、俳優陣もイギリス、フランス、ドイツ、スイス、スウェーデンなどの演技派を揃え、ドラマの主舞台をポルトガルに据えた、ヨーロッパの香りを随所に漂わせる知的構成に満ちた一級の作品となっている。
妻と別れて5年、精神的に落ち込んだライムント・グレゴリウスは、いつも明け方までひとり二役でチェスをしていた。ライムントはスイスのベルンの高校で古典文献学を教えている。ラテン語・ギリシャ語・ヘブライ語に精通する知的教養に満ちた男であり美しい言語で綴られた書物さえあれば孤独に耐えられたはずだった。
ある日、いつものように高校に通う道で女性が橋から身を投げようとする出来事に遭遇し、間一髪の差で助けるが、連れていった高校から赤いコートを残して立ち去ってしまう。このコートから一冊の本を発見する。ライムントは、本に挟まれていたリスボン行きの列車の切符を女性に届けようと駅に急ぎ、衝動的に列車に乗り込んでしまう。車中でその本を読んだライムントは、そのあまりに美しい文章力に魅せられてしまう。
強引に休暇を取ったライムントは、リスボンの町で作者のアマデウの住所を探して家に訪ねる。そこは診療所で初老のアマデウの妹・アドリアーナが応対し、アマデウが医師であることを知る。そしてアマデウが若くして死亡していたことが分かり、ライムントは憑かれたとうにアマデウの過去を探り始める。かつてのアマデウの親友や牧師を訪ね、アマデウが1974年にポルトガルを48年間支配したサラザールの独裁政権が<カーネーション革命>によって倒された年に亡くなるまでの悲痛な行動の流れを探り当てる。
そこには若くして亡くなったアマデウの鮮烈な人生の苦悩と愛が重なっていたのだ。
現在のライムントのリスボンでのアマデウ探しをドラマの縦糸にしながら、同時進行で過去のアマデウの独裁政権下での行動を横糸とし、現在と過去を縦横無尽に行き来する複雑緻密な構成を組むこのドラマは、愛!という古今を問わず、人間の理性ではどうしようもない制御不能な心の葛藤を、自由と抑圧の時代を縦糸・横糸として紡ぐ濃密な精神性の強いドラマとなっているのだ。そしてこのラストの鮮やかな切り口はいつまでも脳裏に刻みつけられるであろう余韻を残す作品となっている。
ぼくのチケット代は、2,600円を出してもいい作品でした。
星印は、5つ差し上げます。

5点満点中5点 2600円

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