400年にわたってエジプトの奴隷として呻吟したヘブライ族の民を、彼等の約束の地カナンへと導いた預言者モーゼの「旧約聖書」での話は、古い映画ファンにはセシル・B・デミル監督がチャールトン・ヘストン主演で映画化した『十戒』(1956)でよ知っていると思う。今回、R・スコット監督が手掛けたこのモーゼの<出エジプト記>話は、現在的視点からモーゼの人間的悩みと、モーゼの置かれた複雑な環境を出来事をリアルに描写していこうと試みた作品となっている。
B.C.1300年、栄華を誇るエジプト王朝の都メンフィス、第19王朝のセティ一世のもとで後継者のラムセス王子と兄弟のように育てられたモーゼは、優れた青年として成長しヒッタイト族とのカデシュの戦いで活躍し、武将として部下の尊敬を集める存在となっていた。しかし、奴隷地区の視察をした折、そこの長老ヌンによりモーゼの出生の秘密を告げられ深く懊悩する。そしてセティ逝去後、即位したラムセスもモーゼがヘブライの民であることを知り悩む。深い葛藤の末、ラムセスはせめての情けとして毛布に王家の宝刀を包ませ国外追放する。その宝刀の力で餓死寸前まで追い詰められたモーゼは果てしない砂漠を生き抜き、紅海を渡りミデヤンの地で羊飼いの族長の娘ツィポラと結婚し、息子も生まれ平和に暮らすが、羊を追った途中嵐に遭遇し人事不省に陥る。その時、不可思議な少年が現れ夢うつつの中で「ヘブライの同胞を助けよ」という啓示の言葉が体内に降り、モーゼは必死で止める妻子を振り切り、再びエジプトへと帰る。他の誰にも見えない少年からの啓示の声に導かれたモーゼは、40万のヘブライの民を救う活動を開始するが、ラムセス王はそれをエジプトに害する者として迫害する。やがて啓示は<10の奇跡>を予言し、モーゼはラムセス王に忠告するが無視され、エジプトの地にただならぬ災害が襲う。ついにラムセス王はモーゼと共にヘブライの奴隷の退去を許可するが、子供を亡くしたラムセスは40万のヘブライ人を殺害しようと追跡する。紅海で追いつかれたヘブライ人の前に、あの紅海がふたつに割れるという大奇跡の出現がおとずれるのだ・・・。
モーゼを強者とせずに、ラムセスへの愛情に悩み、ヘブライ人からも信用がいまいちの人間モーゼ。神の声も誰ひとりわからぬ状況で人間の意思の力で動くモーゼの決死の行動に力点を置いた解釈に、奇跡をも科学的根拠で描写しようと図るこの作品は、その分モーゼの行動に壮快感はないが、それを補って余りあるエジプト王朝の豪華な描写、紅海の割れるシーンなどのCG撮影のスケール感には大作の底力を感じる作品となっている。
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいい作品でした。
星印は、3つ半差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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